AUTORACE.JP
アーカイブ

オートレースアーカイブ

AUTO ARCHIVES

オートレース|SPEED STAR vol.26リターンズ!Vol.03 97年11月発行

  SPEED STAR リターンズ!Vol.03 97年11月発行
前のページへ 表紙P1-P2P3-P4
黒潮列伝03

100%の自分をず~っと出して行く。
それで勝てなきゃしょうがない。

 伊勢崎オートは伊勢崎市街の北西。北に国貞忠治で有名な赤城山の山並を望む広瀬川の岸辺に広がる。場内に入るとすぐ目をひくのが林立する黒く巨大な照明塔。オートレースでは全国唯一のナイターレース開催地でもあるのだ。取材に訪れたのは、これらの照明設備が今シーズン最後のお役目を勤める「GIムーンライトチャンピオンカップ」の前検日。高橋貢は、一昨年のこのレースでGI初勝利をあげている。インタビューでは最初にこれまでの6年間を振り返っての自己採点を訊いた。

 「点数?付けようがないですね。どういう形がいいのかっていえば、現状が一番いい形じゃないのかとは思いますが、終わることがないですからね。勝って終わりじゃないし」

 伊勢崎オートA級1位のレーサーは鼻をすすりながらそう話しだした。どうやら風邪気味らしい。そういえば、師匠の鈴木幸治選手(14期)が弟子入り当時の高橋の印象をこう語っていた。
 
 「身体弱いんですよね。なんかこう、フニャフニャしている、青っ白い感じだったんです」


SGレースは、試験みたいなもの。普段積み重ねた努力をぶつけ合う場だ。

とはいえ、高橋は入門当時から鈴木にとって文字通りの期待の新星だったようだ。

「最初の練習のときから、センスが光ってたですね。ええ、いつかは(SGを)獲ると思っていました。これくらいの時期に獲っても別におかしくないと思ってます。入った時から飛び抜けてたもの。天性のものなんだろうな」

師匠からの最上級の賛辞だが、本人はSGの勝利にそれはと強くこだわっていない様子だ。

「確かにSGやGIは大事ですけど、普段の開催レースの試験みたいなもの。個々のレーサーが日頃いろいろやってきた結果をぶつけ合う場だと思っています」

 この理屈でいくと、今年の高橋はこれまで6年間の努力が実り始めたということだろう。3月の川口でのGI開設記念グランプリを手始めに5月の飯塚でのSGオールスターと、GI、SGを制覇。今年の高橋は順風満帆に見える。その強さの秘訣は何だろう。

モータースポーツは結局エンジン。自分の勝因の7割は整備にあると思う。

 「オートレースもやっぱり若手がすぐに勝てる世界じゃないですよね。乗る方も大事だと思いますが、モータースポーツですから結局エンジンが出ないとどんなに技量があってもダメでしょ。直線でエンジンを全開にしない人はいないわけで、みんなが全開にして走るんだからそこで車のスピードの差が出ますよね。どうしたらいつもいい状態で走れるか それには経験しかない。それが分かっていくに連れてレース前の不安感が無くなってきました。今、自分のレースの勝因の7割は整備が占めると思います」
 
 確かにメカニックとしての高橋の技術力は、師匠の鈴木も認めるところだ。

 「整備もスゴイですよ。巧ちゃん(片平・船橋19期)とも仲がいいんで、よくエンジンのことなんか話してるようですし、本を読んだり、職人の整備みたいなものまで勉強してるから。ただ乗ってるだけじゃないですよ」
 

 ほめられた高橋は笑いながらこうも付け加える。

 「でも、デビューしたての頃は、自分で整備して出て行くのがなんか不安で、自分で組んだエンジンが本当に走んのがおかしいなって(笑)、機械物をいじったことのない人間がボルトをただ締めてるだけで、なんで競走車が動くんだろうなって不思議でした(笑)」

 このように早くから実力が認められてきた高橋だが、レースに望んで気負いのようなものは感じられない。

 「とりあえず、出場するレースではすべて自分の力を100%出せればいいと思ってます。たとえ1レースだけに120%の力を出せても、その次が続かないでしょ。毎回100%、120%出すと100のところが弱く見えますよね。そうじゃなくて、100の自分をず~っと出して行こうかなと。それで勝てなきゃしょうがないでしょ。今は上に行くことや突発的な力を身につけるより、安定して継続できることを中心に考えています。」

向上よりも安定を望むのは、この年齢で少し早過ぎるとも思えるが…。

 「もちろん今の段階で完成しているというわけではないですが、安定感があって同時に平均的にいろんな面で実力アップできればいいなと思います。自分の力が出せれば、それが8着であってもかまわない。ただ後悔するようなレースはしたくないんです。負けても楽しければいい という訳じゃないけど、自分で納得のいくレースならいいんじゃないかと思います」

理想は“きれいな”走り。
他車の間を縫って流れるように走りたい。

 では高橋が納得のいく走りとはどんなものか。

 「一番いいのはきれいに勝つこと。他の選手の間を縫ってゆくような、流れるような走りが理想です。他の選手の車に引っかからない、邪魔にならない、そして他人のペースに乗らず自分のペースで走ること。でもまあ、実際はなかなかできないですよ。きれいごとじゃ済まないですよね、レースは」
 
 ともかく平成9年度後期、高橋は弱冠26歳で伊勢崎地区のA扱1位にランキングされた。片平・島田と並んでオートレース界のスーパースターとなる日も遠くなさそうだ。彼自身これからの自分の立場に対する畏れや不安はないのだろうか。

 「昔は、もしこのまま行けばどうなるのかなって思ったこともあるんですが、やっぱりトップまで行くには経験を積んでゆくわけで、自信も自然に付いていく。先を見ると不安もありますが、いきなり実績の無い人間をおだて上げてチャンピオンにさせる訳ではないので、もしそこまで行けたときには案外不安も無いんじゃないですか」

---と、クール過ぎるといっていいぐらい冷静な答えが返ってくる。そんな貢に対するファンの声も紹介しておこう。インターネット上でオートレースのホームページを主催する地元群馬のAさんの高橋評は意外に手厳しい。
 
 「結構買いにくい選手なんですよね、高橋選手。試走が出ていなければ、蹴っ飛ばします。オールスターでの貢は立派でしたが、最近はスタートで行ってしまわないとちょっと・・・。まだまだもろさがあります。若いのに全場優勝してるし、スーパースター候補には間違いないのですが、あれっ?(笑)っていうレースもあるのが欠点ですね。今年のムーンライトでも雨に弱いところを露呈してしまいました」

 しかしその一方で地元ファンならではの強い期待もにじませる。  
    
 「堂々と横綱相撲がとれるようになれば、もっともっとファンにアピールできるでしょうね。顔もイイし(笑)。ムラを克服して真のスーパースターになって欲しいというのが地元の願いです」

 さて、今年のムーンライトCC。Aさんご指摘の通り、雨のせいか風邪気味だったせいか、高橋は結局準決勝にさえ進めなかった。しかし、その翌週山陽オートで開催された「GⅠ全国地区対抗戦」では本命の船橋勢、地元山陽勢に混じってこの2地区以外からは唯一優勝戦に進出。入賞こそ逃したが伊勢崎勢の意地を見せて地区トップレーサーとしての責任を果たした。

 高橋貢26歳。確かにまだ調子にムラのあるこの伊勢崎の若きエースの成長と活躍に、オートレースファンは当分目が離せそうにない。

※文中敬称略
※文中のデータはすべて1997年11月現在のものです。
前のページへ 表紙P1-P2P3-P4
AUTORACE.JP
COPYRIGHT(C) JKA. ALL RIGHTS RESERVED.